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新聞 朝日新聞 夕刊
2004年12月2日 木曜日
〔巨匠に学べ〕


絵本の読み聞かせ 森ゆり子さん

絵本の「読み聞かせ」という言葉が使われ出したのは、いつごろからだろう。最近は、音楽をつけたり技巧を駆使したり、演劇生が増しているとか。私は演技力は皆無。でも、本は大好き。そんな本の楽しさを私でも伝えることができますか。

 今回の巨匠は「絵本で子育て」センター(兵庫県芦屋市)事務局長で絵本講座講師の森ゆり子さん。関西各地の幼稚園や図書館で年間100件の「絵本講座を開いている。」かつと児童書販売会社で働いていた森さん。一人息子のため、吟味した絵本を毎晩読んだ。「読んでもらうだけで、子どもは自分が大切にされていると感じる」
 兵庫県西宮市の甲子園学院幼稚園での「講座」に同行した。広々とした図書室で5〜6歳の年長組20人が床に座って待っていた。巨匠の「こんにちは」に、元気に「こんにちはー」。
 乳幼児用から小学校低学年向きまで絵本を10冊ほど持参し、場の雰囲気を見て本を決める。乳幼児用は、読み聞かせ初体験の子も楽しめるように。
 この日は、まず『ちびゴリラのちびちび』(ほるぷ出版)を選んだ。子どもたちが感情移入しやすい「成長物語」だ。
 表紙を掲げ見せ「はじまりはじまり」。体の右側に本を開き持って絵を見せながら、ゆっくりと、温かみのある声で、淡々と、読む。そわそわしていた子どもも、ちびゴリラの成長した姿を見て「うわー」と歓声。
 続いて『でんしゃにのって』(アリス館)。話の筋を先取りして「次はゾウ」とか叫ぶ子もいるが、「どうかなあ」と優しくにこやかに応じ、読み続ける。「ガタ、ゴトー」、体を左右に揺らす。子どもたちも合唱して揺れる。大人の私も体が揺れる。次は『はなをくんくん』(福音館書店)。みんな一緒に「くんくん」している。  年齢や慣れによって反応は違うらしいが、同園は毎週読み聞かせをやっていて、ノリもいい。巨匠の助言は(1)心を込める(2)ページをめくる時ひと呼吸おく(3)できるだけゆっくり読む。えっ、こんなゆっくりでいいの?というくらいゆっくり。絵を見て、子どもたちが行間を読めるように。特別な演出は大人の解釈が加わり自己満足にもなりかねないので、無用とのこと。
 いよいよ私の番。本は乳幼児用の『しろくまちゃんのほっとけーき』(こぐま社)。「ざいりょうはなあに」と読み上げると、「牛乳」「小麦粉」と口々に返ってきて、たじろぐ。前列の女の子が「タマゴ割ったことあるよ、あのね」と語り始めた時は焦って、笑顔で流してしまった。ごめん。子どもの声が手応えと感じられてきた頃、読み終えた。「ありがとう」と合唱され、ほわーと力が抜けた。
 続いて森さんが『いいこってどんなこ?』(冨山房)を読み始めた。私の時は足をバタバタさせていた後ろの方の子たちもじっときき入っている。子どもの呼吸をよむ間。絶妙だ。
 予定の30分が終わった。図書室を去る子どもたちに、「おもしろかった?」ときいてしまつた。後で面離散から「絵本は教材じゃない。感想や答えを求めないで」と諭された。

 森さんは大人への講義でも、絵本を読む。普段読んでもらうことのない人に、聞くことの心地よさを体験してもらうためだ。テレビやビデオは一方通行、見る側の反応をすくってくれない。伝えたいのはコミュニケーションの大切さ。だから絵本を読み続ける。(吉村千彰)

〜 格言 絵本の読み聞かせは、淡々と、優しく、心を込めて。 〜
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