新文化 2005年9月8日 木曜日
風信
まだまだ − 図師 尚幸 −
突然の衆院解散でなにやら騒々しい。多くは“テレビ劇場”で演じられる候補者たちのパフォーマンスに踊らされているばかり。出口の見つからない閉塞状況から、声高に語られる改革への道のりに大きく溜息つく人々が多いと思う。ところが、どんな世でも前方に視線を据えて何事にも諦観を持たない逞しい人々もいる。
岡本太郎の作品『坐ることを拒否する椅子』に心をわしづかみにされたという中村小太郎さんは、金なく絵を習ったこともないのに勝手に「岡本太郎の弟子になる」と決意して画業に邁進、「まだまだ、まだまだ」と自らを鼓舞しながら二五年も食らいつき、弟子を取らない岡本太郎に唯一の弟子入りを果たす。だから、小太郎の名は岡本太郎に因む(中村小太郎『まだまだ−いつも次の夢をみている』求龍堂)中村小太郎さんの特異な個性に魅せられて『まだまだ』をプロデュースしたのは好奇心が勝手に歩いているような編集猛女の金井真紀さん。彼女もまた「まだまだ」と言いながら東奔西走し、企画捻出に張り切っている。
特定非営利活動促進法施行以来、NPO法人の設立が一万五〇〇〇件を突破したという。比較的容易に認可されるので危なっかしい法人も少なくないが、スピリッツ豊かに活動する法人も多い。芦屋を本拠とするNPO法人「絵本で子育てセンター」もそのひとつ。絵本のもつ特性を多角的に学びながら大人と子どものコミュニケーションに役立てようと、森ゆり子理事長が立ち上げた。この活動は、隔月刊紙「絵本フォーラム」を博多で刊行する藤井勇市さん開設の絵本講師養成講座がその前身だ。彼は副理事長として今もフィクサー役を務める。さて、理事長の森さんだが、睡眠もろくろく取れないハードな活動を続け「自分でもよく頑張っていると思います」と語りながらも「…まだまだです」と続ける。
文化勲章受章者の巨匠・片岡球子画伯にかつて石版画作品をお願いした。お訪ねするたびに画伯の年齢を感じさせぬ立ち居振る舞いにびつくりする。お声もお話し振りも歯切れよく、その語りが快くぼくの胸に落ちる。すでに頂点に立つ画業を積まれている筈なのに、片岡画伯は語るのだ。
「いゃネ、まだまだヒヨッコなのですよ。画業を極める対岸を前にしているのですから…」。大家たるものの心性を覗いた気がして、ぼくはとびきり嬉しくなった。
鬱々とすることの多いわが日常を省みて「まだまだ」を語る人々の凄みに学びたいと想う。(ほるぷ出版専務取締役) |